サラバンド / イングマール・ベルイマン
作品紹介。
憎しみは やがて至る、愛の森へ
奇跡の作品の誕生
ゴダールが、「誰よりもオリジナリティがある映画作家」と絶賛し、ウディ・アレンが、ロバート・アルトマンが、ラース・フォン・トリアーが、ジム・ジャームッシュがもっとも影響を受けたという北欧が生んだ世界的巨匠イングマール・ベルイマン。映画界を引退し、舞台演出に専念すると宣言していたベルイマンが、85歳にして、『ファニーとアレクサンデル』以来20年ぶりに映画に挑んだ。この名匠が文字通り“最後の作品”として選んだのは、1974年に撮った『ある結婚の風景』の続編であった。その荒々しさ、その光、その噴出。どこにも源泉はなく、それはベルイマンそのものから湧き出る上の咆哮のようだ。
憎しみの終わり。終わりのない愛の始まり
かつて夫婦として生活をともにしたマリアンとヨハンは、離婚後30年ぶりに再会する。一方、ヨハンの近くで暮らす彼の息子のヘンリックとその娘カーリンは、剥き出しの父娘愛のなかで愛憎をたぎらせ、痛みと苦しみの感情を<サラバンド>(バッハの≪無伴奏チェロ組曲第5番の第4曲≫)にぶつけていく…。
『ある結婚の風景』の続編である本作は、男女の愛の深遠をテーマに引き継ぎ、絶望的な愛の欲求を極限のなかに描き出す。ふたりの人間がもつれるたびに深まり激化する、劇場の噴出からなる音楽。しかしやがて彼らは、愛憎の囲いを破り、魂の安息の場所へとたどり着くのだった…。
“神”という絶対的な存在は、自分と相手という人間のペアの愛憎の関わりのなかでしか認識しえない。<サラバンド>というベルイマンの組曲は、その受難を、普遍のなかに描き出す。『ある結婚の風景』から『サラバンド』へ
『ある結婚の風景』は、マリアンとヨハンの夫婦関係に亀裂が生じ、崩壊するさまをリアルに描いた作品である。この作品は、ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞、全米批評家協会賞作品賞、NY批評家協会賞女優賞などを受賞した。そこには、主演女優たちとの華麗な遍歴から生まれたベルイマン自身の結婚生活が色濃く反映されている。最近では、フランソワ・オゾン監督が『ふたりの5つの別れ路』を撮る際に、この作品から深くインスパイアされたことを率直に表明しているほどだ。
前作同様本作では、ベルイマン作品のミューズであるリヴ・ウルマンが堂々たる存在感を示すが、この最新作でベルイマンが発見したのはカーリン役のユーリア・ダフヴェニウスである。まるで初期の傑作『不良少女モニカ』のハリエット・アンデルソンを思わせる溌溂としたエロティックな肢体は、東条しただけで画面に生々しい官能性が息づくかのようである。サラバンド―バッハの音楽に秘められた、激情の四重奏
題名の『サラバンド』とは、17〜18世紀にヨーロッパの宮廷で普及した古典舞曲のことで、とくにバッハの≪無伴奏チェロ組曲第5曲≫の<サラバンド>は有名である。本作でこの曲は、あたかもふたりの父娘の身悶えるような常軌を逸した愛憎そのものを象徴している。とくにふたりが向き合ってチェロを練習するシーンは、言葉をもたない激しい対話のように<サラバンド>が使用され、それはやがてラストの、マリアンとその娘との言葉をもたない、しかし激しい感情の触れ合いにまで移行することとなる。そこにはあきらかに、憎しみや苦しみを超えた、神の慈しみとも言うべき愛が通う瞬間がある。
移転後初のユーロスペースなのであります。
感想。
ええと・・
これまで見た映画の中で10本の指に入ってしまいました。
人間の人間たる部分をこれほどまでに映像にして描き出した作品を初めて見た、という気持ちです。
「愛」、「憎しみ」といった人間のまさに人間たる部分を痛々しいくらいまでに見せ付けてくれます。
葛藤する父と息子。
愛し合う父と娘。
スクリーンの中で人々の愛と憎しみが交叉します。
愛し合うがゆえに憎しみあう、憎しみ合うのだけれども愛し合うというそのやり切れなさに思わずスクリーンから目を逸らしたくなるほどでした。
しかし、そうした関係でしかいられない、そうした関係しかありえないということから目を逸らしているのでは恐らく「人間」として生きていくのは難しいのではないでしょうか。
ヨハンが深夜にあまりの不安に眠れず、マリアンの部屋を訪れるシーン。
ここでヨハンが感じていた不安は愛への不安なのではないでしょうか。
シャツを脱ぎ裸になるヨハン。
「君もネグリジェを脱いだらどうだい」
と言われ、裸になるマリアン。(ただし、逆光のためシルエットしか見えない)
本当の愛っていうのはきっと「受け入れる」ことで、実はマリアン以外誰も誰をも本当の愛を実現できなかったのではないでしょうか。(だから、結局マリアンが留まることはなかった)
久々に映画館で泣きました。
人が生きるということの重々しさ、人を愛することの難しさ、「人間」であることの切なさを是非とも映画館で、必ず映画館で(これは必ず映画館で見るべき映画だと思います)感じてみてください。