マッチポイント / ウディ・アレン

新文芸坐にて。

あらすじ。

ロンドン。野心家の元プロテニス・プレイヤー、クリスは大金持ちのトムと親しくなり、やがて彼の妹クロエと結婚する。お金、社会的地位、妻…確実に夢に描いていた生活を手に入れていくクリス。だが、挑発的なトムの婚約者ノラにどうしようもなく惹きつけられ、やがて関係を持ってしまう。妻はイギリス上流階級のお嬢様。愛人は美しいアメリカ人の女優。愛欲と野望の狭間でクリスの想いは激しく揺れ動き、ついにとんでもない結末へと辿りつく…。

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よかった。その一言でいいような気もするんだけど、とにかく良かった。し、アレンってこんな映画撮る人だっけ、ということを彼の映画なんてそれほどたくさん見てないながら思った。

テーマは「愛か欲か」、「罪と罰」、「運」あたりかな。一貫してそのことが描かれていると思う。

まず、「愛と欲」「運」について。主人公の男は新たな仕事先で仲良くなった金持ちの同僚の妹と結婚し、見事に逆玉男になる。が、その同僚の婚約者に魅了され、結婚後も彼女と関係をもつ。で、妻のことは愛しているが*1、その浮気相手の彼女との間にある愛欲(愛?)をどうしたらよいか分からないと悩み、浮気相手が妊娠することで大きな岐路に立たされ、さて、どうする・・みたいな。それでも最後は運しだいなんだよってのが最初のシーンと最後のシーンで強調される。

(以下、ネタバレ)

罪と罰」について。もう、これは明らか過ぎるんだけど、主人公が物語前半で読んでいるのが『罪と罰』。で、主人公が頭脳明晰ではあるが貧しいという点も同じ。さらには、婆さん殺した後にノラを殺すというのも同じ構図。主人公はラスコーリニコフだということで。

まあ、この作品では分かりやすい感じになっているんだけど、しかしながら最近思うのは、映画って教養ないと見れないよなあ、ということ。映画見てると必ずといっていいほど本とか芸術とかの話が出てくるけど、これ知ってるのと知らないのじゃあ解釈が全く違ってくるんですよね。だって、この作品では『罪と罰』で、まあ、超が何個つくか分からないくらい有名な作品だから文系の人なら流石にストーリーの流れくらいは知ってると思うんだけど、これがひどいことに理系だと『罪と罰』を読んでいる主人公を見てもなんとも思わないんですよね。みんなそろってジャンプとかマガジン読んでるんだものね。一年に十冊以上本読む人間なんて2割くらいなんじゃないかなあ。

でも、そう考えたら理系の彼らがアクション映画とか見るのって正しいような気もします。だって、分からないのに見ても面白いわけないですもんね。自分の感覚に正直だという点に関しては僕みたいに背伸びしたがりな人間より好感は持てる(笑)が、気は合わないことが多い(笑)

しかし、面白かったなあ。家の外で雨が降っている一連のシーンが恐ろしく美しかった。女優なんていつまでやるつもりなの、って婚約者の母から言われてショックを受けたノラが雨の中一人で歩くところを家の中からクリスが見るシーンが最高だった。そのあとのシーンもヤバイ。上に載せたキスシーンがその一連のシーンのワンショット。あまりの美しさに参った。『サラバンド』の中で少女が森の中で泣き叫ぶシーンがあるんだけど、そこで少女の姿は映されず水溜りを上から撮ったショットとその子の叫び声が聴こえるシーンがあるんだけど、僕の中ではそのシーン以来の美しさだった。(ちょっとマニアックなシーンで申し訳ないですが。。)

あとは、ノラにちょっと同情した。最後の最後まで愛されなかったなあ、と思って。途中でクリスに語るシーンでこんなこと話してるんですよね。「姉はすごく美しかったわ。それで、ミスコンテストに父が応募した。父?私たち二人を捨ててどこかへ行ったわ。姉さんは美しかった。私?私はセクシーなだけよ」って。あとは、演技に関しては自身がないって言うところとか、なんというか、本当は愛されたいんだろーな、って。でも、残念ながら彼女はセクシーなので愛の対象ではなく欲望の対象になるという。で、結局犠牲になった。辛いことやるぜ、アレン。でも、それが現実だと思う、僕も。彼女はことごとく運がなかった。最初から最後まで。一方で、クリスは運があった。結局運が勝ったということだ。最後の指輪のくだりは何とも言えないけど。

さて、何はともあれ素晴らしい作品だった。人生は運だ、っていうのは分かるんだけど、個人的には人生は可能性に満ちているというより寧ろ蓋然性に満ちていると思っているから、人生は可能性に満ちているって解釈よりは人生は蓋然性に満ちているってのがこの作品で言いたいことだったのだと思う。と言いたいところだけど、そうでもないかもしれませんね。まあ、運は大事。というか、欲しい。

*1:本当は愛しているというか、その安定した生活を愛しているわけだけど。ということは、実は浮気相手の方を愛しているのか?ん?わからなくなってきた。。