重力ピエロ / 伊坂幸太郎

重力ピエロ

重力ピエロ

「黒澤さんにとっての、『恰好良い』の定義を教えてください」


「俺は定義という言葉が嫌いなんだよ。二度と使わないでくれ」




『重力ピエロ』 伊坂幸太郎 p.365

「おまえはさっき、『世の中では悪いこと』だと言ったけど、世の中っていったい何だよ?」


「世の中は世の中だ。社会と言ってもいい」


サッチャー首相はこう言ったよ。『社会なんていうものは存在しない』」


「殺人犯を放置するのは法律に反するだろ」


「法律なんて弁護士のためにあるだけだ」


「秩序を乱すことになるんじゃないか」


「秩序なんて見たことがない」


「倫理観が痛むことになる」


「俺の倫理観はさっぱり」


「道徳は?」


「倫理とか道徳なんて犬に食わせてしまえばいいんだ」私は、春の前にいる愛らしい柴犬に指を向けた。




『重力ピエロ』 伊坂幸太郎 p.448

久々の伊坂作品。

遺伝子やらゴダールやら頭文字が絡み合ういつものような群像劇であります。

伊坂幸太郎は文体がスタイリッシュだから良いのではなくて、良いからスタイリッシュなのだ。

そんなことを痛感させられるこの本は、ある意味むちゃくちゃで、ある意味切なくて、親子の愛情物語であって、ハードボイルド探偵物語であって、恋愛小説でもあるのだと思う。

僕のまわりではたしかに重力が消えた。