終電車 / フランソワ・トリュフォー


ヌーヴェル・ヴァーグを代表するトリュフォーが極めて伝統的なフランス映画のムードの中に、その円熟の映画話術を開花させた、なめらかなビロードの手触りのする作品である。ドイツ占領下のパリ。女優マリオンは、南米に逃亡したユダヤ人で、支配人兼演出家の夫の代わりにモンマルトル劇場を切り盛りしていることになってはいたが、その実、夫ルカは劇場の地下に潜み、夜の妻の訪問だけを楽しみに国外脱出の機会を待つ身だった。現在の演出家ジャン=ルーは独軍にも顔がきき、御用評論家とも親しい。相手役ベルナールはどうもレジスタンスと通じているらしい。そして新作『消えた女』は好評を持って迎えられるが、評論家ダクシアは芝居をユダヤ的と非難した。それを怒ったベルナールは偶然居合わせた彼を殴りつける。劇場存続に賭けるマリオンは愛を感じ始めていたベルナールを遠ざけねばならない。そんな折、いよいよレジスタンスの参加を決意したベルナールが劇場を去ろうとすると、抜き打ちのゲシュタポの捜査。マリオンはベルナールを地下に向かわせ夫を救う。初対面の彼にルカは、妻は君に夢中なのだ、と告げる。その夜、結ばれるベルナールとマリオン……。劇場は解放の日まで執念の上演を続け、ルカは800日ぶりに陽の光を浴びる……。感情を抑えたドヌーヴの能面的美貌がこのサスペンスフルな作品を完全に支配している。女優を演じるという難行を完璧にやってのけたのはさすが。占領下にあっても逞しく生活を謳歌するパリの市井の人々が影の主役(彼らが殺到する早い時間の地下鉄最終便が題名となっている)で、その丹念なディテール描写が映画全体に生きてくる具合も絶妙である。

http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=10569

シネマヴェーラにて。

トリュフォー好きだとか言っているくせに一度も映画館で見たことがなくてなんとしてもこの機会に見なくてはだって学生800円だぜ、ということで大学の授業が終わって走って向かうはシネマヴェーラ。急いだせいか、上映20分くらい前に着く。人の入りは上々。最終回600円です、という声がたくさん聴こえてくるので学生ばっかじゃん!とか思うわけだけれど比較的男一人が多かった。可哀相な奴等だぜ(僕も含む)と思いつついつものように斜め45度の席にすわり上映を待つ。待っている間「真ん中くらいから色の違う髪型」をした人はいるかなあと探すが特に見つからず。きょろきょろしていると結構カップルとかいて本当にトリュフォーでデートだなんてなんて幸せものなのだろうか、とゆーか来るなよな!とか悪態をつきたくなるが我慢我慢。

いつもどおり音楽が鳴って映画が始まり、わあ、わあ、まんまトリュフォーじゃんか!とか当たり前のことを思ってみたりしていると前の席の人がごそごそするので大変不愉快だなあと思い上映が終わったら説教してやろうと企むが勿論そんなことするわけがない。

ジェラール・ドパルデューが女性を口説くシーンから始まって、本当にフランスの映画というのはしょっちゅう男がナンパしているけれど平和な国だなあフランスはと思いつつ日本の渋谷とかでナンパしている男の子たちを思い浮かべてフランス人はやっぱかっこいいなあとか思ってみたりする。渋谷の男の子たちもきっとフランス映画見て勉強すべきだ。シネマヴェーラへ急げ。

内容としてはドイツ占領下のパリが舞台なのでユダヤ人差別のこととか出てきてまったくなんということだと少し憤ってみたりするわけだけれど、なんといってもカトリーヌ・ドヌーヴが大変美しくて、本当にこの人はどんな映画に出てもさまになるなあと思い、きっと『シェルブールの雨傘』を映画館で見たら素敵なのだろうなあと妄想パーティーを繰り広げた。

全体的に(画面が)暗い場面が多くて、停電になるシーンとかいやそれのみならず地下のシーンとか本当に素敵で素敵すぎてこの映画見ている間に三回くらい泣いたのだけれどどうにも泣くようなシーンではなくて、映画館が暗くてよかったなあと思うし以前から何度も協調しているように映画館は人目を気にせず泣くことができるようにするために暗いわけで僕はそのために800円、じゃなかった600円のうちの300円か250円くらいは払っているので当たり前であるような気もしなくはないしでもこれは傲慢であるのかもしれない。

そういうわけで、結局何の感想なのか分からなくなってしまったけれど、本当に素敵な二時間ちょっとを過ごせたのでした。あとは『夜霧の恋人たち』と『日曜日が待ち遠しい!』と『私のように美しい娘』と『柔らかい肌』あたりを見たら満足するだろう。そういえば何か足りないなあと思っていたら『暗くなるまでこの恋を』がないのだった。トリュフォーは映画館でみなきゃダメだなあと思いしらされたよサンクスですヴェーラ。