パリ、ジュテーム

早稲田松竹にて。

ジャン=リュック・ゴダールエリック・ロメールも参加した、ヌーヴェルヴァーグの頂点を極めた映画『パリところどころ』から早40年。その現代版ともいえる、新たなパリ映画の傑作がここに誕生した。『パリ、ジュテーム』だ。この映画には、『パリところどころ』に負けずとも劣らぬ、錚々たる顔ぶれがならんでいて、しかも、今回はフランスだけでなく全世界からこの企画に賛同した優れた才能がパリに集まり、世界に名だたる18人の映画監督による夢のような競演が実現した。

http://www.cinematopics.com/cinema/works/output2.php?oid=7737

・1区 『チュイルリー』

監督/脚本 ジョエル・コーエンイーサン・コーエン
キャスト スティーヴ・ブシェミ、ジュリー・バタイユ

地下鉄チュイルリー駅のホームで、アメリカ人観光客の男がガイドブックを読んでいる。「パリは恋人たちの街」という紹介どおり、向かいのベンチではカップルが熱烈なキスを交わしている。思わずそれを凝視していた観光客の視線に気づき、カップルの男が怒声をあげ出した。観光客はフランス語がわからないが、どうも因縁をつけられているらしい。逆上する男とたしなめようとした女は派手にケンカをはじめるが、タイミングよく向こうに電車が滑り込んで来て一件落着と思った次の瞬間、女が観光客にディープキスしてきて、さあ大変!

非常によかった。コーエン兄弟とブシェミのタッグはやはり最強だな、と実感。独特の世界観が秀逸だった。すばらしい。

・2区 『ヴィクトワール広場』

監督/脚本 諏訪敦彦
キャスト ジュリエット・ビノシュウィレム・デフォー、イポリット・ジラルド

「ママ、カウボーイは今もいるんだよ」 カウボーイの存在を無邪気に信じていた息子のジュスタンを1週間前に亡くしたスザンヌは、夫の慰めも娘の励ましの言葉も耳に入らず、泣き暮らして抜け殻のような日々を送っている。ある晩、ジュスタンの声が聞こえて、思わず飛び出した広場で、彼女は馬に乗ったカウボーイと出会う。「息子に会いたいか?私について来る勇気があるか?」とたずねるカウボーイに、スザンヌは無言で何度も何度もうなずくのだった。

日本から諏訪監督が参戦。ヴィクトワール広場を照らす明かりの美しさにメロメロ。内容はありがちといえばありがち。

・3区 『デ・ザンファン・ルージュ地区』

監督/脚本 オリヴィエ・アサイヤス
キャスト マギー・ギレンホール、リオネル・ドレー、ジョアンナ・プレイス

映画の撮影でパリにやって来たアメリカ人女優のリズは、ドラッグの代金を支払うために角のATMまで行くが、高額紙幣しか引き出せない。お金をくずそうと仕方なく寄ったカフェで、リズが女優だと知ったケンは撮影を見たいと言い出す。頼まれるままにリズは、「だったら電話して」と携帯の番号をコースターに書いて渡す。撮影の長い待ち時間中にリズはケンに会いたくなって、再度、撮影現場までドラッグのデリバリーを頼むのだが……。

これはよかった。まさに短編のラブストーリといった感じ。マギー・ギレンホールの最後の表情が最高だった。

・4区 『マレ地区』

監督/脚本 ガス・ヴァン・サント
キャスト マリアンヌ・フェイスフル、イライアス・マッコネル、ギャスパー・ウリエル

街の印刷所に、英国の女性客が通訳のガスパールと共にやって来る。店主と女性客が奥に行っている間、店先に残されたガスパールは、下働きの青年エリに一瞬で興味をひかれる。「君の顔に見覚えがある、特別なオーラを感じるんだ。前世で会ったんじゃないかな」 エリこそソウルメイトと信じ、熱い想いを語り続けたガスパールは、帰り際、エリに電話番号を渡した。そんなガスパールの後ろ姿を見送りながら、エリは店主に向かって英語でつぶやく……。

ほんと、このオッサンは美男子が好きだよなあ、としみじみと思った。超男前の男の子二人の同性愛。エディ・スリマンと組んで世界中の美男子を集めようとか変なことを考えておるのではないかとかいちいち別のことを考えてしまって集中して見れなかった。最後の音楽がかかるシーンは良かった。

・5区 『セーヌ河岸』

監督 グリンダ・チャーダ
脚本 グリンダ・チャーダ、ポール・マエダ・バージェス
キャスト レイラ・ベクティ?、シリル・デクール

2人の悪友と一緒にセーヌ河岸でナンパをしていたフランソワは、目の前で転んだアラブ系の若い女性をとっさに助け起こす。ほどけたベールを巻き直し、彼女が美しい髪を包み隠してしまうのを見て、「どうして髪を隠すの?」とたずねるフランソワに、彼女はベール<ヘジャブ>をかぶる理由を話して去っていく。そんな純粋な彼女に心打たれたフランソワは、名前も連絡先もわからないまま、ただモスクに向かい、彼女を待つのだが……。

これもいかにもな短編ラブストーリー。イスラム系の女の子が非常にかわいい。男の子が女の子のベールを直しながら会話するところがたまらない。


・6区 『カルチェラタン

監督 フレデリック・オービュルタン、ジェラール・ドパルデュー
脚本 ジーナ・ローランズ
キャスト ジーナ・ローランズ、ベン・ギャザラ、ジェラール・ドパルデュー

初老のアメリカ人ベンは、別居中の妻ジーナと正式に離婚するために、パリへやって来た。ジーナのなじみのレストランで、久々に顔を合わせたふたり。お互いにまだ気持ちは残っているようだが、ジーナは若いサイクリストと交際、ベンには妊娠3カ月の若い愛人がいる。「離婚が成立したら、彼女と結婚する」というベンの言葉に驚いたジーナだったが、翌日の離婚調停の時間を確認して、先に出て行く。苦い思いで席を立つベンに、レストランのオーナーが声をかける。

大人なラブストーリー。あまり内容覚えていないけれど、あいかわらずジェラール・ドパルデューがでかかった。ベン・ギャザラも出てたなあ。恋というより愛ですか。

・7区 『エッフェル塔

監督/脚本 シルヴァン・ショメ
キャスト ヨランド・モロー、ポール・パトナー

エッフェル塔のすぐそばに、ひとりの男が住んでいた。彼にとって、パントマイムを演じることは人生のすべてなのに、気味悪がって誰も相手にしてくれないから、いつも独りぼっちだ。そんな彼が不審者と間違われて放り込まれた留置所で、女性のマイム・アーティストと運命的な出会いを果たす。似た者同士、すぐに意気投合したふたりの間には、やがて可愛らしい男の子が生まれる。

コメディータッチで、かつエッフェル塔が出てくるものだから、『地下鉄のザジ』を思い出した。ほのぼの系。

・8区 『マドレーヌ界隈』

監督/脚本 ヴィンチェンゾ・ナタリ
キャスト イライジャ・ウッドオルガ・キュリレンコウェス・クレイヴン

深夜、バックパックを担いだ青年は、今まさに人を襲ったばかりの美貌のヴァンパイアと出くわす。しかし、自分を襲わずに立ち去ろうとする彼女をひきとめるために、彼はわざと手に傷をつけて血流す。それでも彼女は彼を襲おうとしなかったが、ふいに階段から落ちた青年が瀕死の重傷を負ったのを見て、駆け寄ってきた。ヴァンパイアの彼女から血をもらって、彼もヴァンパイアとして蘇生するが……。

トレイラーでもかなりフゥーチャーされていた作品。最後はコメディー的なオチ。悪くはなかった。

・9区 『ピガール』

監督/脚本 リチャード・ラグラヴェネーズ
キャスト ファニー・アルダンボブ・ホスキンス

赤いネオンがまたたく歓楽街ピガール。のぞき部屋にやって来たボブの個室に、さっき一杯ひっかけるために寄ったバーで短い会話を交わした女性が現れる。ためらいと期待が入り混じる中、彼女といいムードになったボブが調子にのって「ここにキスしてくれ」と言ったとたん、女性は「セリフは覚えてるけど、言えないわ」と怒り出す。そう、ふたりは、長年舞台でコンビを組んでいるカップル。刺激を求めてこのピガールへやって来たのだ……。

好きじゃないタイプだけど意外と面白かった。歓楽街の明かりがきれい。フランス男ならではのドンファン的台詞がたまらなかった。

・10区 『フォブール・サ・ドニ』

監督/脚本 トム・ティクヴァ
キャスト ナタリー・ポートマン、メルキオール・ベスロン

盲目の学生トマは、恋人から突然、別れを告げる電話を受ける。恋人のフランシーヌとの出会いは、5月15日。女優志望の彼女が、ヒモに監禁されている娼婦役のセリフの練習していたのを、本当に危険が迫っていると勘違いしたトマが、通りから声をかけたことがきっかけだった。オーディションに合格したフランシーヌは、アメリカからパリに移り住み、トマと交際をはじめる。以来、いつもふたりはそばにいたのに、時は飛ぶように過ぎていき……。

これはまさに短編ラブストーリーとして完璧の作品で、一番好きだった。恋人といる時間(←なんか映画のタイトルだな)のどうしようもなく楽しい感じがうまく表現されてたと思う。二人が街中を走る姿が最高に素敵だった。恋する二人には街中を「走る」というシチュエーションは必須だと思う。ナタリー・ポートマンは歳を取るにつれてどんどんかわいくなくなっていくのが残念。

・12区 『バスティーユ

監督/脚本 イザベル・コイシェ
キャスト セルジオ・カステリット、ミランダ・リチャードソンレオノール・ワトリング

男には、交際1年半になる客室乗務員の愛人がいる。今日、妻を愛していないことに初めて気づいたレストランで、男は妻に別れ話を切り出すつもりだった。しかし、その試みは失敗に終わる。妻が号泣しながら、衝撃的な事実を告白したからだ。末期の白血病を患った妻と一緒に過ごすことに決めた男、刻一刻と死に近づく妻。こうして始まった男と女の最後の濃密な日々彼は、妻に恋する男を演じることで、妻に2度目の恋をする。

よかった。別れようと思っていた妻がもうすぐ死ぬということが分かって、もう一度彼女のことを知ろうとすることで、もう一度恋をするという話。ストーリーとしてはありきたりかもしれないけれど、やはり切ない。

・13区 『ショワジー門』

監督 クリストファー・ドイル
脚本 クリストファー・ドイル、ガブリエル・ケン、キャシー・リー
キャスト バーベット・シュローダー

シャンプーのセールスマンをするミスター・アイニーは、チャイナタウンにあるマダム・リーの美容室へやって来た。いきなりカンフーの手荒い歓迎を受けるが、マダムにぴったりのヘアスタイルを提案。そのテクニックにマダムは恍惚に酔い、おおいに喜ばれるミスター・アイニー。「アイニーは、中国語で“ジュテーム”の意味よ」とささやくマダムに、「君はいまの髪型がいちばんステキだ」と言い残し、彼はチャイナタウンを後にする。

好きじゃなかったけれど、面白かった。やはりカメラマンとしてのクリストファー・ドイルはすばらしいのだと思う。いや、カメラワークとかわからないのだけれど・・。。「うぉーあいにー」で『花とアリス』を思い出した。

・14区 『14区』

監督/脚本 アレクサンダー・ペイン
キャスト マーゴ・マーティンデイル

デンヴァーで郵便配達するキャロルの、パリでの“特別な1日”の物語。ひとりで憧れのパリへやって来た彼女は、ひとりで街を眺め、ひとりで食事をする。自分は自立した大人の女だし、1人旅は自由だが、「きれいね」と言いたくても誰もそばにいないのは、なんだか味気ない。そしてある日、キャロルは14区で小さいけれど美しい公園を見つける。その公園のベンチでサンドイッチを食べていたとき、“あること”が起きる。それは、キャロルにとって、何かを思い出したような、ずっと待っていたような不思議な出来事だった……。

ずっとナレーションがぶつぶつと主人公の女性の心境を呟いている作品で、終始フランスちっくな音楽がかかっていて素敵だった。その音楽の軽快さが逆に主人公の切なさを際立たせていた気がする。なかなかよかった。

・16区 『16区から遠く離れて』

監督/脚本 ウォルター・サレス、ダニエラ・トマス
キャスト カタリーナ・サンディノ・モレノ

パリ郊外の団地に住む移民のアナは、毎日夜明けとともに起き、まだ辺りが薄暗い時間に、生まれて間もない子供を託児所に預けて、電車とバスと地下鉄を乗り継いで16区の仕事場に出かけていく。そこで彼女を待っているのは、豪華なマンションで暮らす一家のベビーシッターの仕事。派手な泣き声に気づいて、贅沢な子供部屋に入っていったアナは、泣いている赤ん坊に子守歌をやさしく歌う。最愛の我が子をあやすときと同じ歌を。

まさにショートフィルム、といった感じのアーティスティックな仕上がり。あっけなく終わった。

・17区 『モンソー公園』

監督/脚本 アルフォンソ・キュアロン
キャスト ニック・ノルティリュディヴィーヌ・サニエ

モンソー公園の近くの通りで、クレアは、待ち合わせに遅れてきた初老の男ヴィンセントとやっと落ち合う。通りを歩きながら、ふたりの間で交わされる緊迫した会話。「俺を信用してくれ」、「ギャスパールに人生を支配されそうで恐いの」、「下手に逆らわなければ、俺たちが会うチャンスはもっと増えるさ」気持ちが不安定なクレアは、どうやらギャスパールという男から逃げ出すために、ヴィンセントの手を借りようとしているようなのだが…?

非常によかった。言葉を交わしながら通りを歩く男女(親子)を撮り続ける。最後にオチがついている。

・18区 『モンマルトル』

監督/脚本 ブリュノ・ポダリデス
キャスト ブリュノ・ポダリデス、フロランス・ミューレル

坂道が続くモンマルトルで、駐車スペースを探すのは至難の業。だからスペースを確保できた彼はラッキーなのに、浮かない顔をしている。恋人のいない孤独な自分にうんざりしているからだ。そんな男が乗った車の横で、黒いコートの女が突然倒れる。救命士の資格を持つ彼は、女をマイカーの後部座席でしばらく休ませることに。やがて意識を取り戻した女は、「手が気持ちよかったわ」と感謝の気持ちを伝え、車から降りようとするが……。

なかなかよかった。男の切なさを感じた。

・19区 『お祭り広場』

監督/脚本 オリヴァー・シュミッツ
キャスト セイドゥ・ボロ、アイサ・マイガ

広場の真ん中で、若い医学生のソフィが、何者かに腹を刺されて瀕死の重傷を負ったハッサンに応急処置をしている。献身的に介抱してくれる彼女を見て、ハッサンはふと思い出した。駐車場の雑用係をしていたとき、車を入れに来たソフィに一目惚れして、お茶に誘おうとしたことを。薄れゆく意識の中で、ハッサンは、あの時に実現できなかった、ソフィとコーヒーを飲む夢をかなえようとするが……。

非常によかった。これまた切ない。

・20区 『ペール・ラシェーズ墓地』

監督/脚本 ウェス・クレイヴン
キャスト エミリー・モーティマールーファス・シーウェルアレクサンダー・ペイン

フランシスとウィリアムは、結婚を1カ月後に控えたイギリス人のカップル。フランシスの希望で有名人が数多く眠るこの墓地へやって来たものの、彼女がオスカー・ワイルドの墓にキスするのを、彼が「不潔だ」と非難したことで大ゲンカがはじまる。彼女は以前から、彼がカタブツでジョークが通じないのを不満に思っていて、そのことをぶちまけて、泣きながら去っていく。すると、ひとり取り残されたウィリアムの前に、優雅にたばこを燻らせるオスカー・ワイルドが現れた……。

非常によかった。「フランス」、「夫婦のすれ違い」という状況を見ているとついついモーリヤックの『テレーズ・デスケイルゥ』を思い出してしまった。やっぱり価値観だとか趣味だとかが合うことは重要だよなあとしみじみ感傷に浸っていた。まあ、でもこの男みたいに自分が変わることも重要だよね、ということで。「私には笑いが必要なのよ!」とヒステリックに叫ぶ女の子(エミリー・モーティマー)をどっかで見たなあと思っていたら、『マッチポイント』で、だった。