ブランク1

これからは朝から大学へ行き、早めに切り上げることにした。朝九時から夜九時まで大学で勉強していた頃が嘘みたいなくらいこのごろは勉強がはかどらない。もう少し頭を使って問題を解いたりしないといけない気がする。フーリエ解析はまず無理だし、ちょっとした微分方程式も今では解ける気がしない。ラプラス変換くらいなら今でも身についてはいるが、やっぱり確率微分方程式を使うこともいまやままならないのだろう。ブラウン運動ということばを聴くとなんだか懐かしい。何かに夢中になることは歳をとるにつれてすこしずつ減っていくのだろう。高校生のときに夢中になって数学を解いていたときに味わっていたあの恍惚感はもう味わえないのだろうか。

朝方まで本を読んでいたので、少しだけ仮眠をして家を出た。今日は少し寒さが和らぎ、自転車に乗るのに手袋を忘れたが気にならなかった。それでもやはり吐く息は白く、いつものように自転車置き場のおじさんにおはようと言われて山手線に乗る。

最近夕方に大学に行くことが多かったので久々にお昼前のゆったりとした時間の流れる渋谷の姿を見ることができた。疎らではあるが交差点をわたる人々の数は相変わらず多い。山手線から井の頭線に乗りかえる改札口の入り口のところで電車を降りてきた多くの人々を避けながらなんとか電車に乗り込み二駅ほど青空を眺める。天気がよい。

文化人類学教室のゼミ室に着き、どもです、と会釈して資本主義の多様性について議論する。日本の雇用保障・ワーキングプアについてああでもないこうでもないと考えるような若い人たちがいるのだから日本も捨てたものではない。やっぱりK村先生のゼミに出ると普段考えないようなことを考えることが出来るのでよい。色々な場所に出向くのは重要なことだ。

ゼミが終わって、研究室で雑用をして、すぐに本郷へ。Nゼミ。はじめにプロジェクトマネージメント論みたいなのを聞かされて、その後chenさんが論文を紹介する。以前から二人でココが分からないのだよね、と話していたところに関して、自分もこれを読んでいてようやく分かったと説明してくれた。それにしても、ゲーデルエッシャー・バッハ。自分が考えたいこととどんぴしゃすぎて困る。生命のない物質から生命のある存在がどのようにして生まれるのか、石のような自己をもたないものからどのようにして自己・私が生まれるのか。僕が死ぬまでに何とか納得したいことの一つだ。

ゼミ後はchenさんとふらふら喋って、北田研の人と議論しながら帰宅。面白いイベントが色々あるらしくて、教えてもらった。悲しい進路のことを考えても仕方ないっすよね、と二人で面白い話ばかりをした。あの雑誌のあの論考が、この論考が、と。

彼が用があって帰ってしまったので、久々に学部のときの友人K座に電話をかけると、ずいぶんと驚かれた。「お前、どうしてんだよ、××!」と大声で騒ぐので、おいおい騒ぎすぎだろう落ち着けと諭す。飯でも食わんか、と言うと実験がてこずっていて遅くなると言われたが、構わんよ、そうだK山も呼ぼうということになりK山に電話するとK山まで電話に出た瞬間に「××!!」と叫ぶので、おいおい、お前ら死んだ人が生き返ったみたいな声を出すな、と言うと「お前、連絡しろよ!ばか!!」と怒られた。最近どうだと訊くと研究所と家の往復だ、と言う。ああ、そうか、誰かに会うのか、と訊くとあまり会わんね、みんな研究室忙しいのだろう、とK山。

まあお前は研究所だものなそれより製薬会社の就職おめでとう、ありがとうお前は相変わらず変わってないようだな、ああ相変わらずだよ、この間のメールで聞いたお前の研究内容さっぱりわからんよ、オレの説明が悪かった、いやいやお前は昔からそうだった、そうかなあ、そうだった、そうかじゃあオレ変わってないんだな、ああ変わってない、そうか、それより電話ありがとう、何をいいだす、いやオレずっとお前と会いたかったんだよ、何だよそれ、いやホントだよ、そうか、そうだ、ありがとう、はははどうしたお前からありがとうなんて、だからオレを悪役にするなよみんなして、はははごめんだってお前一人で突っ走るから、ああそうかな、そうだ、そうだよな、本当に嬉しいよ久々で、いや8ヶ月くらいだろ、そうだっけそうだみんな心配してるよお前のこと、そうなのか、そうだよお前大丈夫じゃないから、大丈夫じゃないね、ああ大丈夫じゃない、ははは、でもお前がオレたちの中では20年後一番面白いことやってるとおもうよオレ、そんなことないよ、そんなことあるよ、どんなものにも面白さってのは見出せるんだよ、変わったなお前、変わったかな、ああ変わったお前がそんなこと言うようになるとは、言わなかったけど思ってたけどね、そうかお前黙ってずっと考えてるもんな、そうだな、とにかくありがとうオレ嬉しいよ近いうちに会おう今日はダメだけど、ああ、じゃあな、ああ、ありがとう、だからそれはオレの台詞だよ、ははは、ははは。

久しぶりに自転車のペダルが軽く感じられたから少しだけ遠出して夕食を食べたら、すごくおいしくて幸せな気持ちになった。人生にはもう少し楽しいことが多くても良いのではないか、と思ったから来月はちょろちょろ夜遊びをしようと思う。ウームだったかエアだったかのデジタリズムか仲さんあたりにでも遊びに行きたい。