July 21

夏の匂ひに包まれる夜である。

わたしはお酒を飲みながら、夢か現か言葉を重ね続ける。

昨日どこやらを歩いていて購入したお香を自宅に帰って焚いてみると、部屋の中に芳しい匂ひがたちこめ、深い眠りにつけそうであったのだけれど、パソコンのキーボードをぱちぱちと叩きなどすれば、朝四時に東の空が明るみ始め、一日の始まりとともに一日が終わった。

したがって今日は午後からふらりふらりと街を徘徊してみようかしらと新宿に向かったわけだけれど、先日から読み始めた尾崎翠の「第七官界彷徨」を新宿へ向かうある電車の中で読んでいたらば、これは段段と面白くなっていく物語であって、鱗の恋愛を研究している男のその浪漫的態度に心惹かれることとなった。

新宿駅の南口を出ると、大きな塔が見える。行き交う人々をするりと避けて目的地へ向かう。蕎麦を喰らう。美味。竹輪天。

小説の舞台は新宿の西口に決めた。高層ビルの合間を潜り抜けてやってくる風に身を任せながら歩くしんとした無機質な街が舞台。高層ビルの下で眠る家のない人々。眠る場所しかないどこにも属せない男。物理的空間の同一性から生み出される複数の形而上学的記憶が交じり合う宵。