A small, good thing

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あはれ花びらながれ
をみなごに花びらながれ
をみなごしめやかに語らひあゆみ
うららかの跫音空にながれ
をりふしに瞳をあげて
翳りなきみ寺の春をすぎゆくなり
み寺の甍(いらか)みどりにうるほひ
廂々(ひさし)に
風鐸(ふうたく)のすがたしづかなれば
ひとりなる
わが身の影をあゆまする甃(いし)のうへ


甃のうへ   三好達治

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最近は、早起きなわけである。

先週あたりから東京は雨降りも少なくなり、朝から、朝9時から、東向きの窓から部屋に太陽の光が容赦なく照り付けてくるから、暑い暑いと汗をかきつつ目が覚める。

昨日は朝9だか10時に大学に着き、数理科学研究科の図書館に用事があって行ってみたら、楽しそうな本がたくあんあって喜ばしかった。そもそも数理科学の図書館は使ったことがなくて、初めて中に入ったのだけれど、二階に上がる階段の処に朝陽が差し込み、真っ白な壁が照らされて、素敵ですね、とテンションが上がった。(どうでもいいけど数理科学研究科の雰囲気は好きだ)

マセマティカを使ってちょっとシミュレーションやってみようかしら的日々であって、数理科学研究科を訪れたわけだけれど、目当ての本は思いのほか気合の入った本で、少しわくわくしつつ、暇つぶしに図書館の本棚を眺めていたら、ファイバー束の本とかあって、そういえば解析力学の授業でちょっと触れたな、とか懐かしくなって、ここ一、二年くらい数学を真面目にやっていないせいで体調が悪いのではないか、とか的外れな推論をすることとなった。いまや数学を真面目にできるほど頭が働く予感もないけれどね。(先日から久々に離散数学の復習をしているわけだけれど)

ということで、じゃあ、と別の図書館に向かい、いろいろな雑誌を読む。相変わらず知りあいの人たちが出ていたりして、いいねみんな人気者だね、とか羨みつつ社会科学の本をゲット。本当は現代詩とか読みたい気分なのだけれど、ここの図書館には残念ながら置いてありませんね。三好達治とか立ち読みして、ああ、と思い本棚に返した。リルケの詩集が欲しいです。

研究室に戻り、ため息混じりでプログラムを書き、結構楽しくて、お昼ごはんを食べて、煙草を吸っていたら、Iさんが来て、というか相変わらずここでよく会うのだけれど、どもです、と話して、暑い中煙草をすぱすぱくゆらせて、噴水からみずがしゅぱーと噴出していて、いや、ちょろちょろと噴出していて、夏、とか思いながら、ダメ大学院生ですね僕ら、と嗤い、研究室に戻り、気づいたら眠っており、起きたらボスがいて、どうだ調子は、と訊かれて、言葉を濁らせて、夕方になって、映画を見に行きたかったのだけれどいいのが見つからなくて、下北にでも行ってぶらぶらしようかしらを企んだけれど気分がのらなくて、やめた。

一日というのはあっという間で、気づいたら爺さんになっているのではないかしら、と時々大変不安になるのだけれど、その不安定性こそが生きている証だ、とか言ってみる。

家の中にも研究室にも資料が散在していて、わけがわからない。研究室を片付けていたら統一感のない論文がたくさん出てきて、いったい何がしたいのかしらね自分は、と疑わざるをえないのだけれど、今朝目が覚めて一番に思ったことは、学部のときみたいにもっと勉強をすることを楽しみたいなあ、ということで、あのころは朝から晩まで勉強してもまだ足りなかったのに、最近は朝から晩まで体力が続かないでいる。難しい問題を見てもわくわくしないし、どうしたのだろうか。

それにしても、相変わらず不思議でいる。いったい人間って何なのだろうね。人が動いているのを見るとどういう仕組みで可能なのだろうかと考えざるをえないし、人が話しているのを聴くとどうして人は話せるのかねえどうして伝わるのかね言葉はと考えずにはいられないし、人が人を殺すのを見てどういう気持ちなのだろうか、とか理不尽ねこの世は、とか、通りすがる人々を眺めながらあなたは不思議に思わないのですか、とか訊いてみたくなるし、たんぱく質のかたまりにすぎないはずなのにね人間なんて、と思ってみたり、だって死んでしまえばただの物質だぜ、とかいつか説明がつくのだろうかね。

朝から頭の中こんがらがっている場合ではなくて、やることやらないとね。本郷に行くついでに美術館にでも行ってこようかしら。なんだか青空の下、なんてことない町のちいさな通りを、大股で歩きたい気分です。