no title


いくらかうとうとして注意散漫だった一日。
随分と緊張の続く日々が少し穏やかになってきたのは春のような陽気のせいか、澄み渡る青空の下はまだ少し肌寒くて、マフラーを巻いて家を出るのか迷った挙句ぐるぐる巻きにしてかけてあったマフラーを掴んで解いて今度は首にぐるぐる巻いて家を出た。


とても難しい問題についていくつか考えている。
とても難しいのだけれど、いかにシンプルな答えを見つけられるのかということに注意しながら考えている。


先日参加したカンファレンスの中で印象的だったのは一人の男の人で、彼が楽しそうに自分の作品を解説する様に多くの人が魅了されていた。
楽しさも悲しさもなぜだか分からないけれど伝染するようで、彼の楽しさに伝染して帰り道、先日うまくまとまらなかった話があったときと同じ場所を通ったのだけれどそれほど嫌ではなく、軽い足取りでりんかい線のホームに向かった。


海沿いを歩いてみたい、だとか、たくさん人がいる場所がいい、だとか、たくさんの欲求の一つ一つを吟味しながら、一つ一つの可能性を大切に手離していっている。
欲しいものを手に入れることも大切だけれどそれよりも必要なものや大切なものを手元に置いておくことに精一杯で、それは以前は挑戦することの放棄だからダメだ、なんて自分に向かって制限していたのだけれど、今はそんなことはほとんど思わなくって、新しく何かをつくることと同様につくられた何かを守ることも大切なのではないかと思うようになってきた。


先日自宅の洗濯機の排水部分から水が溢れてきてしまい工事の人を呼んだ。
一緒に洗濯機を持って動かしたり、水回りの見えない部分がどうなっているのかということを確かめたり。毎日漏水ばかりですよ、と彼が言うので、そんなに毎日漏水は起こっているのですね私の知らないところで、なんて会話をしながらともに原因箇所を突き止めた。彼の作業を見ていて、なんだか無性に一緒に仕事がしたくなっていたのでそれはとても満足で、楽しかった。結局問題の箇所は分かったのだけれどその日に直すことは出来ず、あくる日に持ち越されることになった。今も洗濯機は使うことが出来ず、せっかく天気がよいのになんだか勿体ない。


頭の中で誰かに「今どうしてるの?」と訊かれている。
「そうですね、絞っています」と答える。


ない頭を絞って、必要なものを絞って、精気を絞って、日々は案外平穏に続いていく。
あれだけ欲しかったものがちっとも欲しくないだなんて、なんだか拍子抜けするけれど、物足りなさはない。