呼吸

しばらく実家に帰って、温かいご飯を食べていた。他には婆ちゃんの畑仕事を手伝ったり、爺ちゃんの愚痴を聞いたり。田舎はよくもわるくものんびりしていて、「ここにはいられないな」と思ってさっさと東京に帰ってきたものの、この歳になってホームシックだろうか、帰ってきたその日に渋谷の人ごみをかきわけていると、どうにも涙がとまらない。街中で若い男がひとり泣きながら歩いてるなんて滑稽だから感情を抑えようと頑張るのだけれど、どうにも適わなかった。

一人暮らしが長くなれば長くなるほど家族の温かさに気づかされる。あれだけ毎日喧嘩ばかりしていた母親だったが、僕も大人になったせいだろうか、今回の帰郷ではほとんど口論をすることもなかった。好物のロールキャベツをつくってもらって、子供みたいに「おかわり!」なんて張り切った声を出しちゃったりして。

実家の周りも、婆ちゃんちの周りも、大きな建物がたくさん建っていた。「ここらへんも街になってからに、よう分からんようになったわいの」という婆ちゃんの言葉にいちいち共感を覚えながら、痩せこけた横顔を助手席からちらちら覗き見る。今年で78歳。この人より先にいってしまってはいけないよね、やっぱり、と自分に問いかける。ダメ、だよね。

少しだけ文章を書いてみたけれど、なんだか元気がないな。色々と決めたことがあるから、いろいろな人に話さなければいけない。うまく話せるだろうか。悪意を伝えることは得意だが、大切なことを他人に伝えるのは、あんまり得意じゃない。