春にして君を想う


 春眠不覚暁
 処々聞啼鳥
 夜来風雨声
 花落知多少

 春暁 孟浩然

(ハルノネザメノウツツデ聞ケバ
 トリノナクネデ目ガサメマシテ
 ヨルノアラシニ雨マジリ
 散ツタ木ノ花イカホドバカリ

 井伏鱒二


地上を這うようにつたってゆく雨水を車が撥ね上げながらあちらからこちらへ向かってくる気配とカラスが騒がしく啼きたてる音に重たい頭をのっしりと持ち上げ目を覚ます。

季節はすっかり暖かになって、うっかり転寝なんてしてしまうような日々の中で、ほんの中休みのような気持ちで雨の日を一日過ごす。

以前は雨の日は図書館で本を読み帰り道に映画を見るというのが僕の基本的な生活の一部をなしていたのだけれど、最近はどこへも行こうとは思わなくなってしまった。いつも履いているナイキのスニーカーは新宿の道端でひろった安物だから、雨の日には弱い。

転がるように進んで行く日常とともに坂道を転がり落ちているのかと言われればそんなこともなくて、ただ、仕事に追われ、本を読み、ぐっすりと眠る生活であったりする。

焦ってばかりの僕の人生には幸か不幸かしばらくの猶予が与えられ、明日旅に出ることだって何だって出来るらしい。実際そのことを実行に移すと、一緒に仕事をしている人たちを困らせるのではないか、などと危惧してみるが、便利な世の中で、コンピュータとインターネットがあれば僕はどこでも仕事が出来るのだ。

必要なものは全部頭とコンピュータの中に詰め込み、あとは僕の意志がうまく身体を動かしてくれるのを待つだけだ。そうして身体を動かしていると、あるとき意志と身体の主従関係が崩れる。身体が先走り、意志がうまく身体に伝わらなくなるのだ。

こうなると、いつものようにたどり着くのは深い闇の中で、絶望的な孤独感を味わうことになる。他者に向けての言葉を生成することも適わず、目の前の仕事に没頭してゆくだけである。自分のための言葉を、目の前にある機械のための言葉を、延々と産みだし続けてゆく。

そんな僕を気づかって多くの人が心配をしてくれるのだけれど、他者に向けての言葉はいつまでも生まれず、感謝の言葉も出てこない。僕がいなくなってしまったと思えばいいんだよ、という言葉がつい口から発せられるのだけれど、なんて勝手なことだろうか。こうして僕は多くの人を失い、言葉を散り散りに霧散させてゆくことだろう。これからもずっと。


Bien placés bien choisis
quelques mots font une poésie   
les mots il suffit qu'on les aime 
pour écrire un poème        
on sait pas toujours ce qu'on dit 
lorsque naît la poésie       
faut ensuite rechercher le thème  
pour intituler le poème 
mais d'autres fois on pleure on rit
en écrivant la poèsie       
ça a toujours kékchosepoème d'extrême
un poème    

- Raymond Queneau           

(うまく並べて うまく選べば
 幾つかの言葉で詩ができる
 言葉ってやつが好きなら それでいいんだ
 詩を書くには
 何を言っているのか いつもわかってるわけじゃない
 詩が生まれてくるからって
 次にテーマを探さなくちゃならない
 詩に題をつけるために
 でも泣くことがある 笑うことがある
 詩を書いてるとさ
 いつもナンカ激しいトコがあるんだ
 詩ってやつはさ
 )



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