コーヒーを飲もうよ

晴れた日の午前9時。

どこまでいっても一人なんだなあ、と目の前にいる人と話しながら考える。

だからどうだとかもう思わなくなってしまったけれど。

つまらないことに夢中になっている彼女を横目に欠伸と背伸びを繰り返す。

自宅の廊下から見える富士山の頂きを眺めながら、きれいだね、と呟く。


パソコン画面の前で嘆息をつく。

Gmailを開く。

10月はもうすぐ終わるんだよ。


東京に来た初めの年の冬にはたくさん雪が降った。

古ぼけたアパートの一室の気温はぐんぐん下がり、吐く息はすべて白んだ。

晦日に駅前のマクドナルドへ出かけ、ビッグマックセットを頼んだ。

元旦には蕎麦を食べ、炬燵で蜜柑を頬張る。

あの頃から何が変わってしまったのか。

どこを探ってみても一向に分からない。


これ以上東京にいて何があるのだろう。


そんなこと考えながら歩く109の前の交叉点。

誰かの人生と混じり合うことが怖くなった午後10時。



消えたいという思いが訪れる午後9時。

空っぽの部屋の中で空っぽな気持ちが膨張する。

誰かに満たしてほしい衝動に駆られてfirefoxを開く。

誰かに会えば消えるわけでもなく

誰かに触れたら消えるわけでもなく


明日のことを考えながら布団に潜り込んだ午前2時。

頭から毛布を被って目をつむる。

閉じた両目の瞼の裏に広がる世界が恐くて目が覚める。

洗面所で口からお腹っぱいになるまで水を詰め込む。



こうして日々は過ぎてゆき、温もりもまた消えてゆくのだろう。

冷たい雪のような個体へと変化して

やがて解けゆく春を夢みて



目が覚めたら一人じゃなければいいな。

温かいコーヒーを飲もうよ。